12、3歳の頃に、両親のためにエドワードさんが描いた設計図を横で眺めて楽しんでいた。「子供っぽい発想で、エディの図面の上から勝手に修正を入れていたんです」と可愛らしいエピソードを反省を込めて語る。描き込んだ図は、自分の部屋の外にプール、そして窓からそこに繋がる滑り台など。「父は怒らずに、子供なりの夢を膨らませてくれて、『いいアイデアだね』と尊重してくれました」。

インタビュー!
イギリス人の父から教わった
「家を育てる」という習慣
ヘザー・ブラッキンさんインタビュー後編
築20年のメゾネットを自分らしいインテリアに作り変えながら、海外に暮らすように住むヘザー・ブラッキンさん。子供の頃から憧れていた職業につき、手をかけながら、家を育てる姿勢は、イギリス人の父から教わったこと。常に進めているインテリアのプロジェクトは彼女の人生の楽しみでもある。
ヘザーさんが、インテリアに興味を持ち始めたのは子供の頃。ベッドとして自分に与えられた押入れの空間に写真やポスターを飾ったり、クッションを置いたり。「インテリアを考えるのが、好きで好きでしょうがなかった」。そんな気持ちが仕事へと結びつくきっかけになったのが、建築家のエドワード鈴木さんだった。ヘザーさんの母は、作家の森瑤子さん。エドワードさんは長年両親の親しい友人だった。「母たちの友人の家や別荘の多くを彼が手掛けていて、憧れでした。エディみたいなお仕事がしたい!と思って」。
父から教わった「家を育てる」ということ

「森瑤子を知る方は、このセンスを母から受け継いでいると思われるかもしれませんが、暮らしに関しては父なんです」と断言するヘザーさん。インテリアに携わる仕事についた今の自分の中にある「家を育てる」というテーマは、父が教えてくれたことだと。
それはヨーロッパでは当たり前のようなことでもあった。ベルギーでは20代前半で古い家を購入してリフォームをし、家の一部を人に貸してローンを払っていくという人が周りに多くいたのだそう。完成したらその家を売り、またほかの家をリフォームしていくのだとか。彼女自身も23才で家を買い、直しながら住んでいたことがある。「古いものが、そうして残っていくんですよね」と語る。

インテリアをより良く、暮らしやすく
2020年からのコロナ禍により、家での自粛時間が多かったけれど、実はかえって忙しい日々だった。同時進行のプロジェクトも多く、「ひとつに集中しなさい!と自分に言いたい」と笑いながら、「でも止まってしまうと、私の人生まで止まります」と。その言葉通り、インテリアをより良く、暮らしやすくすることが人生のミッションであるかのよう。
20年経った家の次なる課題のひとつ、キッチンに関しても希望はいろいろとあるけれど、建売の住まいにはリフォームの限界がある。これまでも表面的な化粧直しはずっと続けていて、壁にはレンガタイルを貼り、上から白いペンキを塗ったり、棚のボードにグレーのカッティングシートを貼ったり、スパイスや食材の収納のためにラックを作りつけたりもしている。昨年末に導入したタッチレス浄水栓は、そんなキッチンを新鮮にするアイテムだ。電源を引く工事の必要がない乾電池式だったので、取り付けが可能だった。

「料理人生が変わった!」
ヘザーさんは、毎年、クリスマスにはイギリスの伝統料理、ターキーとパイを焼く。パイをこねた粉だらけの手で触れることなく蛇口から水を出した瞬間に、改めて「これは素晴らしい!」と実感したそう。手を真っ白にして水を出すのに苦労していたこれまでのクリスマスに比べると、格段に楽だったと話す。以前から生肉などの調理中に蛇口を触ることに衛生面で敏感になっていたこともあり、今は安心して使える。「料理人生が変わった!」と楽しそうに言う。また、浄水栓にして飲み水はペットボトルのミネラルウォーターを買う手間が減った。米を研ぐところから浄水を使うようになったのだそう。

家を案内されながら、どこにどう手を入れたかを聞いていると、自分も家に帰ったらこんなふうにしてみようかなという気持ちになってくる。難しいと思っていたDIYも真似して出来るかもしれないと思えるようになるから不思議だ。ヘザーさんの口調や屈託のない様子が、そんな魔法をかけてくれるのかもしれない。最後に「暮らす中で大切にしていることは?」と尋ねてみると、「楽しむことですね。DIYもそのひとつですが、変えたいという気持ちがあったら、やってみる。外に出かけたり、旅に出たりしても、『早く帰りたい』と思えるような場所であること。最後に帰ってくるのは家しかない。家は自分の人生の中心なのですから」と笑顔で答えてくれた。
