CHALLENGER “より豊かな暮らしへの探求”

常務役員本部長 / LIXIL Housing Technology
商品・デザイン本部 デザインセンター

羽賀 豊
Yutaka Haga

LIXIL独自の技術『FORCE CARBON』を駆使して生まれた製品は、どのような背景を経て誕生したのか。
「LIXIL Housing Technology」商品開発・デザイン本部 本部長の羽賀 豊が、製品に込められた思いとともに、
自らのデザイン哲学や『FORCE CARBON』に期待する可能性について語ります。

“背景”を磨き上げ
暮らしをより豊かに

プロダクトに触れながら、豊かな暮らしへの思いを巡らせる羽賀の画像

“背景”を磨き上げ
暮らしをより豊かに

LIXILの商品開発・デザイン部門を統括する立場として、新規事業につながるイノベーションとデザインの創出に日々取り組む羽賀。自身が商品開発に向き合う際の考え方や、大切にしている視点について聞きました。

「一つのプロダクトをつくり出すうえで私が普段から意識していることは、そこに暮らす人に対して、どうすればより豊かな時間を過ごしてもらえるか、どうすればより満足度の高い空間を提供できるか、ということです。

たとえば、同じフランス料理を食べるにしても、紙の皿でそのまま出されるより、器やテーブルにもこだわり、照明や雰囲気を大事にした空間で食べたほうがおいしく感じますよね。私たちが手掛けている、そうしたいわば“背景を彩るプロダクト”は、それ自体が際立った形状をしていたり、過度に目立つ必要はありません。できるかぎり必要のない要素を削ぎ落とし、極限までシンプルを追い求めたプロダクトこそが、暮らしをさらに豊かなものにする。新商品の方向性を決める際などには、その指針を忘れないようにしています」

Red Dot Design Award 2024において「Best of the Best」を受賞した『SEAMLESS』のイメージ画像
Red Dot Design Award 2024において「Best of the Best」を受賞した『SEAMLESS』のイメージ画像
Red Dot Design Award 2024において「Best of the Best」を受賞した『SEAMLESS』のイメージ画像

新たな時代にふさわしい
至高の窓をつくりたい

羽賀が2021年に立ち上げた開口部のハイエンドブランド『NODEA』。その中で2023年春に発表されたパノラマウィンドウ『SEAMLESS』の誕生の裏側には、さまざまな試行錯誤と、デザインに向き合う揺るがぬ姿勢がありました。

「『SEAMLESS』は、電動のパラレル&スライド開閉機構による「フラットなガラス面一構造」と高気密・高断熱性能を兼ね備えた窓です。閉めた際にまるで一枚のガラスのように感じられる面一のガラス面をつくり出すことで、景色がシームレスに美しく映り込み、暮らす人のクリエイティビティを高めるような、心豊かな空間をめざしました。

こうした部屋の内側と外側が一体に感じられるような開放感を醸成するには、限りなく存在感を抑えたフレームが必要でした。しかし、そのフレームの細さと、雨風をしのぐ窓本来の機能を両立するには、従来のアルミでは強度が不足していました。そこで私たちが着目した素材が、カーボンです。『FORCE CARBON』を駆使し、軽量でありながら高強度・高断熱性・高耐久性の特長を持つCFRP(炭素繊維強化樹脂)を採用することで、フレームレスと言えるほどの極細かつ凹凸のないフレームを実現しました。

新しい商品を生み出す際には、2つのアプローチがあると考えています。1つは、今すでにあるものの延長線上で改善していくやり方と、もう1つは、めざすべき姿を思い描き、それを実現するにはどのような手法が最適かを探っていくスタイルです。『SEAMLESS』では、後者のアプローチを採用しました。『SEAMLESS』がめざしたのは、「新時代にふさわしい窓のありかたを探究し提案すること」です。この目標に向かい、完成までには膨大な回数の検証を重ねましたし、さまざまな選択肢がある中で最適解を見極めるのは決して容易ではありませんでした。しかし、メンバー全員がベクトルを合わせてプロジェクトを進行できたことで、最終的には非常に完成度の高い、これまでにない至高の窓をつくり上げることができました」

『窓』が持つ
美しさを
追い求める挑戦

『窓』が持つ
美しさを
追い求める挑戦

その『SEAMLESS』が、2024年度の『レッドドット・デザイン賞(Red Dot Design Award)』において「Best of the Best」を受賞しました。世界3大デザイン賞に数えられる国際的なプロダクトデザインの賞の中でも、最も高いデザイン品質と創造的なパフォーマンスが認められた製品のみに与えられる最高位の賞を日本で初めて受賞した意義について、羽賀は次のように語ります。

「窓というものは、これまで機能面やサイズばかりが注目されがちで、美しさやデザイン性、暮らしにどのような体験をもたらすかといった観点ではあまり語られてこなかったように感じています。『SEAMLESS』は、そうした従来の窓が持つ価値のバウンダリー(境界線)を広げることに挑戦した商品でもあるのです。今回、そうした私たちのプロダクトが世界的に権威のある賞に認められたことは大変嬉しく思っています。

スポーツの世界でも、まず誰かが先陣を切って目覚ましい成果を挙げることで、それを見た人が挑戦しやすくなり、そのスポーツ全体の盛り上がりにつながることがあると思うんです。今回の受賞が、たくさんの若手技術者やデザイナーが後に続いて挑戦するきっかけになるといいなと期待しています。今後も窓を通して暮らしをいかにアップグレードしていくか、どうすれば次のステージを目指していけるかを追求しながら、世界をリードする商品開発やものづくりに取り組んでいきたいと思います」

面一のガラス面へシームレスに映り込む様子を観察する羽賀の画像
カーボン繊維を取り入れた細くて高強度なフレームの画像
光や影、気配などのオーガニックな表情を生み出すパーティション『Concept F』のイメージ画像
光や影、気配などのオーガニックな表情を生み出すパーティション『Concept F』のイメージ画像
光や影、気配などのオーガニックな表情を生み出すパーティション『Concept F』のイメージ画像

素材の可能性を
どこまで引き出せるか

素材の可能性を
どこまで引き出せるか

『FORCE CARBON』を活用した商品は、いずれもデザイン性に優れているところも特長的です。今回『SEAMLESS』が受賞する以前には、パーティション『Concept F』が2021年度の『グッドデザイン賞』を受賞しています。

「『Concept F』は、日本の伝統的な生け垣や竹垣を現代の住宅に合わせてアレンジできないか、というところから着想を得た斬新な形状のパーティションです。CFRPでできた細い線がランダムに織り重なることで、まるで自然に生える草のように自立し、その隙間からあふれる光や影、気配といったオーガニックな表情を生み出すことができます。柔らかくしなやかで、自由な造形が可能なCFRPの特長を生かし、これまでのパーティションやフェンスの概念を広げることにチャレンジした商品となっています。

その他、CFRPとアルミの複合材スリーブを使用したフレームを採用した『プラスG ロングアーチ』は、極限まで硬くできるCFRPの特長を生かし、重厚でノイズレスなデザインを実現しています。これらの商品のように、しなやかさと強さを併せ持ち、シンプルな形状にも複雑な形状にも姿を変えられるCFRPには、まだまだ多くの可能性があると考えています。その可能性をいかに引き出すかが、今後も私たちにとって大きなテーマです」

ランダムに織り重なるCFRPの造形に触れる羽賀の画像
素材を吟味する羽賀の画像
素材を吟味する羽賀の画像
素材を吟味する羽賀の画像

技術力のない企業からは、
いいデザインの商品は生まれない

技術力のない企業からは、
いいデザインの商品は生まれない

最後に、『FORCE CARBON』の今後について羽賀はどのように捉えているのか。建材業界に感じている課題とともに、自身が見据える未来を以下のように話します。

「私は以前から、建材業界の課題の1つは、進化のスピードが遅いことではないかと感じていました。やはり、新たな技術や素材の開発は簡単ではありません。だからこそ、この『FORCE CARBON』でCFRPのさまざまな特性を生かすことで、建材の可能性をさらに広げていきたい。そうすることで住まいの自由度が上がり、将来的にはまるで着る服を気軽に選ぶように、ユーザーにより多くの選択肢を提供できるようになるのではないかと考えています。

技術力のない企業からは、いいデザインの商品が生まれることはありません。デザイナーがどれだけ素晴らしいデザインを思いついても、それを商品として世に出せる技術がなければ絵に描いた餅と同じです。優れた技術とデザイン性の2つが揃うことで、初めてイノベーションが実現できる。私はそう信じています。私たちはこれからも、『FORCE CARBON』という技術とデザイナーの発想力を高次元で融合させていくことで、ユーザーの想像を超える商品を生み出し続けていきたいと考えています」

建材のカラーや素材、仕上がりを確認する羽賀の画像
暮らしを豊かにするプロダクトの未来を見つめる羽賀の画像
暮らしを豊かにするプロダクトの未来を見つめる羽賀の画像

常務役員本部長 / LIXIL Housing Technology
商品・デザイン本部 デザインセンター

羽賀 豊

Yutaka Haga

2014年、LIXIL入社。ハウジングテクノロジー事業のデザイン部門責任者として活動。2021年4月よりハイエンドブランド『NODEA』を発足し、事業責任者として運営にも携わる。2023年4月より、商品開発の推進、デザイン、新規ビジネスを束ねた商品開発・デザイン本部を発足。イノベーションとデザインを事業につなげる活動を進行中。