天気の良い日は庭に出て、太陽の光や風を感じる──そんな、“家と庭が一体となった暮らし”を、かつての日本人は「縁側」などによって実現していた。
しかし、住まいの高気密・高断熱化が進み、縁側のない家が増えてくると、いつしか日本人は一番身近な自然である「庭」と接する機会を失っていった。
それに比べ欧米では、自然からの恵みを感じることで健やかな心や体を取り戻す、「自然浴」という考えが失われずに定着していた。
この「自然浴」のある暮らしを日本にも取り戻したいと、1980年代にLIXIL(当時のTOEX)によって生み出されたのが、家でも庭でもない、その中間の「ガーデンルーム」という商品ジャンル。これは、インテリアに対するエクステリア(住まいの外部空間)という言葉を日本に広めるきっかけにもなった。
天気の良い日は庭に出て、太陽の光や風を感じる──そんな、“家と庭が一体となった暮らし”を、かつての日本人は「縁側」などによって実現していた。
しかし、住まいの高気密・高断熱化が進み、縁側のない家が増えてくると、いつしか日本人は一番身近な自然である「庭」と接する機会を失っていった。
それに比べ欧米では、自然からの恵みを感じることで健やかな心や体を
取り戻す、「自然浴」という考えが失われずに定着していた。
この「自然浴」のある暮らしを日本にも取り戻したいと、1980年代にLIXIL(当時のTOEX)によって生み出されたのが、家でも庭でもない、その中間の「ガーデンルーム」という商品ジャンル。これは、インテリアに対するエクステリア(住まいの外部空間)という言葉を日本に広めるきっかけにもなった。
このガーデンルームが世に出たとき、大学生だった青木は、「いつかこんな商品を自分でも作ってみたい」と、暮らしと自然を調和させる考え方に共感。
大学卒業と同時にLIXIL(当時のTOEX)に入社し、以来ガーデンルームの開発畑を歩み続けてきた。
そして、2014年、『ココマ』の開発チームリーダーに抜擢された。
『ココマ』は、小さな庭にも設置できるガーデンルームとして開発された初代(2006年〜)の後継機種だ。とくに都心では、せっかく“庭付き一戸建て”を建てても、庭が狭く隣家の視線が気になるので、庭に出るのがおっくうだという人も多い。初代の『ココマ』は、前面に目隠しとなる「腰壁」を配置することで、隣地や道路からの視線をゆるやかに遮ることができる。ストレスなく居られる空間を提案したことで、”これまで使われていなかった敷地を有効活用できる”と、都市部のユーザーから大きな支持を得た。その発売から8年目に、リニューアル版のリリースが計画されたのだ。
今回のリニューアルで特に力を入れたのは、「工期の短縮」だった。
というのも、『ココマ』はタイル貼りの「腰壁」を用いるため、壁にタイルを貼りつける作業が必要となる。従来の「湿式」(モルタル下地にタイルを貼る)工法だと、モルタルを乾かすだけで4〜5日もかかり、その分全体の工期も長期化してしまう。
「もっと早く、お客様に商品を届けることができないか」
タイル職人がいなくても、窓部分を設置するアルミ職人がタイル貼りもすることができれば、人件費も工期も格段に圧縮できる。しかし、青木にとってタイルは専門外。タイル職人ではない人でも簡単にタイルが貼れる方法など、思い浮かぶはずもなかった。
今回のリニューアルで特に力を入れたのは、「工期の短縮」だった。
というのも、『ココマ』はタイル貼りの「腰壁」を用いるため、壁にタイルを貼りつける作業が必要となる。従来の「湿式」(モルタル下地にタイルを貼る)工法だと、モルタルを乾かすだけで4〜5日もかかり、その分全体の工期も長期化してしまう。
「もっと早く、お客様に商品を届けることができないか」
タイル職人がいなくても、窓部分を設置するアルミ職人がタイル貼りもすることができれば、人件費も工期も格段に圧縮できる。しかし、青木にとってタイルは専門外。タイル職人ではない人でも簡単にタイルが貼れる方法など、思い浮かぶはずもなかった。
そんな青木に手を差し伸べたのは、LIXILの誕生とともに同じ部署となった旧INAXの「タイル事業部」のメンバーたちだった。
彼らは、いわばタイルのプロ。タイル業界では一般的に知られていた「乾式」(接着剤でタイルを貼る)を青木に伝授した。そして、タイル職人ではない人でも簡単に、しかも確実かつ安全に施工できる工法を、青木とともに試行錯誤した。
「彼らの存在がなければ、この工法を見つけ出すのに相当時間がかかったでしょうね。商品開発はスピードが大事。大いに助かりました」と青木は振り返る。
この乾式工法によって、工期は従来のおよそ半分にまで短縮。たとえば、これまで2週間かかっていたものが、1週間でお客様に引き渡すことができるようになった。まさに、専門技術の垣根を越えた、LIXILならではの融合であった。
しかし、青木たち開発チームの前に、別の難関が立ちはだかった。
“この商品は家の一部なのか? それとも庭の一部なのか?”
ガーデンルームならではのジレンマから生まれる課題である。
庭の一部なら、多少の雨風が漏れてもおかしくない。しかし、囲いがある以上、家の一部と考える人もいる。とくに居住性を高めた『ココマ』は、より家に近い商品だ。
青木は、「屋外設備だが、屋内並みの快適性が必要」と考えた。それは、“家のくつろぎと庭の開放感の融合”を求めることである。
しかしそのためには、屋外施設のタフさを持ちつつ、屋内施設と同等の気密性が必要。そうなると、既存の屋外施設用の部材は使えない。
見直しを迫られた部材の数は10や20では済まない。しかし、青木はそれらを全て、一から設計し直した。
「お客様が少しでもがっかりするような商品を、世に出すわけにはいきませんから……」
しかし、青木たち開発チームの前に、別の難関が立ちはだかった。
“この商品は家の一部なのか? それとも庭の一部なのか?”
ガーデンルームならではのジレンマから生まれる課題である。
庭の一部なら、多少の雨風が漏れてもおかしくない。しかし、囲いがある以上、家の一部と考える人もいる。とくに居住性を高めた『ココマ』は、より家に近い商品だ。
青木は、「屋外設備だが、屋内並みの快適性が必要」と考えた。それは、“家のくつろぎと庭の開放感の融合”を求めることである。
しかしそのためには、屋外施設のタフさを持ちつつ、屋内施設と同等の気密性が必要。そうなると、既存の屋外施設用の部材は使えない。
見直しを迫られた部材の数は10や20では済まない。しかし、青木はそれらを全て、一から設計し直した。
「お客様が少しでもがっかりするような商品を、世に出すわけにはいきませんから……」
商品を設計し、試作品を作った後は、さまざまな「耐久試験」が待っている。雨風や日光に常にさらされるエクステリア製品の開発は、この耐久試験というハードルを避けては通れない。
「耐久試験をクリアできず、何度設計のやり直しをしたことか……。しかも、部材を一から見直したことで、試験の数が予想以上に増えてしまった。半年間ずっと試験ばかりしていた時期がありましたね」
試験では、温度、摩擦、化学薬品、衝撃、重さ、風など、商品が受けるであろう、あらゆる”ストレス”を人工的に与え、問題なく耐えられるかどうかを確認する。それは時間や手間が想定以上にかかる作業であった。
しかし、妥協することはできない。スケジュールは厳しい状態ではあったが、青木には信念があった。
──お客様の安全をないがしろにはすることは絶対にできない──
こうして、妥協なく開発が進められた、青木渾身の『ココマ』はようやく日の目を見ることができたのである。
「日夜を問わず働いてくれた開発チームや、自分の仕事で忙しいのに試験を手伝ってくれた他の部署の仲間たちのおかげです。今回ほど”人の情け”を感じたことはありませんね。できればそういったものは感じずに、さらりと済ませたかったんですけど……(笑)」
発売後、青木は品質向上のため、何軒か『ココマ』を購入したユーザー宅を聞き取り調査に訪ねた。その時の印象を、青木はこう話す。
「みなさん決まって笑顔なんですよ。”窓から見える庭の景色が最高”とか、”ワンちゃんがいつも遊びに来てくれて嬉しい”とか、感想はさまざまなんですが、共通して笑顔に溢れているんです。ああ、この商品を作ってよかったな、とつくづく思いました」
青木にはこんな希望がある。
庭に興味を持つことで、外の世界、すなわち自分の住む街にも興味が湧く。やがて、そんな気持ちがたくさん積み重なり、街は安全に、美しく発展していく──。
「そのきっかけが、うちのガーデンルームであってほしいんです」
青木にとって、庭は敷地内の単なるスペースではない。外の世界への入り口なのだ。