開発者の声 素材にたより、素材をいかす。原点から生まれた壁材。

    タイル建材 エコカラット ECOCARAT

    R&D本部 マテリアルサイエンス研究所 窯業研究グループ グループリーダー 川合秀治 ※所属は取材時のもの

    性能を大幅アップせよ

    部屋の壁に張るだけで、湿気や臭い、ホルムアルデヒドなどの有害物質を吸着するタイル建材「エコカラット」。シックハウスや湿気による住宅内トラブルが社会問題となっていた1998年に発売され、現在も売上を伸ばし続けているロングセラー製品だ。

    川合が「エコカラット」の開発に関わったのは、最初の製品が発売された直後の2000年ごろ。製品のさらなる飛躍のため、性能を大幅にアップするのがミッションだった。

    “多孔質セラミックス”と呼ばれる「エコカラット」には、肉眼では見えない微小な孔が無数にあり、その孔に空気が入ったり出たりすることで湿度が調整される。そのメカニズムを支えているのは、各地から集められた湿気を吸う性質の“土”と、それらの土を最適な孔の数で焼き上げる“技術”の合わせ技だ。
    「エコカラットの性能を上げるのは、理屈上は簡単です。湿気を吸う孔を増やさせばいいのです。しかし、孔の数が増えれば増えるほど、もろく壊れやすくなります」
    それは、発泡スチロールが普通のプラスチックより壊れやすいのと同じ。では、耐久性を維持しながら孔を増やすにはどうすればいいのか?

    有効な孔の数を増やせ

    川合は気づいた。「エコカラットには、湿気を吸わない“無駄な孔”が結構ある」と。

    それは製造の過程でどうしても生まれてしまう、ささいなロスであった。そうした“無駄な孔”を“有効な孔”に変えることができれば、孔の数はそのままで、つまり耐久性を維持しながら吸湿力などの性能を上げることができるのではないか?ではどうやって? 川合がたどり着いたのは“素材の見直し”だった。

    「やはり“土”にたよろうと……。土のメカニズムにたより、それをいかすことが、長年土を使ってタイルを作ってきた自社の強みを最大限に発揮することだと気づいたんです」

    川合はありとあらゆる原材料を集め始めた。そしてそれらを組み合わせて、ベストの配合を探った。組み合わせのパターンは200通り以上。一つひとつサンプルを焼き上げて、性能を試した。ベストの配合が見つかったのは見直しを決めてから1年後。時間はかかってしまったが、吸湿力を2倍に上げることに成功した。

    デザインでも勝負

    川合は“デザイン性”の向上にも取りかかった。当初の「エコカラット」は平らな板状のものしかなく、張ったときの表情に乏しかった。しかし「エコカラット」は壁紙もライバルだ。壁紙にできなくて、タイルにできることが求められる。たとえば“立体”にすること。小さな立体物を自在に組み合わせることができれば、凹凸や素材感により、壁を表情豊かに演出することができるはず……。

    そこで川合は「エコカラット」の“立体化”と“小型化”に取り掛かった。それらを内装の現場で自由に組み合わせて使ってもらうのだ。しかし通常のタイルとは違う「エコカラット」ならではの問題点があった。浴室や外壁に用いるタイルはモルタルを使って張り付けることが多い。その際“目地”と呼ばれる隙間ができるので多少のズレがあっても問題ない。ところが部屋の内壁に用いる「エコカラット」は、壁紙と同じように接着剤で隙間なく張り合わせなければならないのだ。

    「製品の寸法に少しでも狂いがあると、張り付け作業の途中でズレが生じて、きれいに仕上がらなくなるんです。壁紙のように、その場で切って調整するということができませんから」

    理想は“隙間ゼロ”

    理想は“隙間ゼロ”。製造現場からは「無理だ!」との声が一斉に上がった。それでも川合はあきらめずに説得した。議論に議論を重ねて、デザインと技術上の限界が両立する隙間の“落とし所”を探った。

    導き出された数字は“1.0”ミリ。それ以上大きくなると壁の隙間が見え、それ以下だと窮屈すぎてはまらない可能性があった。「エコカラット」自体に狂いがなくても、取り付ける壁自体が微妙にゆがんでいる可能性があるため、最低限の“遊び”は必要だった。

    「技術側にとっては辛抱をしいられる作業だったと思います。くじけそうになったら『今年だめでも、来年、再来年出すから』と言い聞かせながら開発を進めました。結果的には1年くらいで完成させましたが、現場のスタッフには今でも『うまく乗せられた』と言われます(笑)」

    性能と色”の両立

    次の課題は“色”であった。「エコカラット」発売から10年。建築業界には浸透していたが、一般消費者にはまだまだ知られざる存在。知名度を上げるには、色は非常に大切な要素だ。

    「色のバリエーションが増えれば、より壁の表情を豊かにすることができる。そうすればもっと多くのお客様に注目される。とくに“黒”のニーズが高かったのですが、それを実現するのは至難の技でした」

    色を乗せやすくするために表面に釉薬を塗ってしまうと、肝心の無数の孔を塞いでしまう。とはいえ素材の土に色をつけるのも泥水に絵の具を落とすようなもので難しい。当時の「エコカラット」は白を基調とした薄い色ばかり。そこに、川合は、目の覚めるような“完璧な黒”を投入するという難題に取りかかった。そのための方法は、やはり“素材にたよる”ことであった。

    完璧な“黒”を求めて

    「ほとんど土で作られているエコカラット。結局たよれるのは素材しかない」

    開発チームは濃い色の出る顔料を方々から探し求め、土自体にも色を出やすくする工夫を重ねた。いくつも試作品を作り、検証を積み重ねた。理想的な黒色が出来上がるのに、1年あまりも時間がかかってしまったが、ユーザーからの反響は大きかった。

    当時流行し始めていた薄型テレビ。その背後に「エコカラットを張るとかっこいい」という声が相次いだのだ。折しも個人ブログが普及し始めていた時期。「客間が見違えるようになった」「お客様を呼びたくなった」という評判の声が拡散した。

    「“壁紙を超えて、調度品と肩を並べた”と実感しました」

    お客様とのキャッチボール

    湿気や結露、シックハウス、デザイン性──次々と移り変わる時代のニーズを敏感に察知しながら、進化を続けている「エコカラット」。お客様からは、「湿気が減った」「部屋の雰囲気が変わった」などの声が寄せられている。

    「お客様の暮らしを少しでも豊かにできたのではと、自負しています」

    その要因として、「トップダウンではなく、開発チーム全員に市場を見る目があった」と川合は分析する。そして「お客様に教わることが多くあった」とも。

    実はデザイン性を上げるきっかけとなったのは“お客様の使い方”。「エコカラット」をモザイク模様のように飾る“デザイン張り”が、お客様の間で流行していたのだ。それは“もっと豊かに壁を飾りたい”という無言のメッセージ……。

    「投げてよこされた“お客様の思い”というボールをどう投げ返すか。そんなふうにお客様とキャッチボールしながら製品を作ってきましたし、これからもそうしていきたいと思っています」

    そんなお客様第一主義の川合が製品開発の際に大切にしているのは“パッシブ”という言葉だ。

    「 “自然に”や“さりげなく”という意味です。それがあることで“空気がきれいだよね”と、お客様に感じてもらえる製品が理想です」

    それは日本伝統の“侘び寂び”にも通じる思い。ごく自然に、しかし最大の効果が得られるよう、川合はこれからもお客様のために、パッシブなものづくりを進めていく。

    川合にとってものづくりとは……

    「自社の“コア技術”を大切にすること。それこそものづくり大国、日本の強み。人が変わっても技術は脈々と受け継がれていくのですから」

    ガーデンルーム エクシオールココマU

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