よい水とは何か?
それは、おいしい水と同義だろうか?
安全で安心であれば、それはよい水といえるのか?
飲んでおいしければ、それはすなわち、おいしい水か?
衛生陶器やキッチン、浴槽など、
家庭の水まわり製品全般を手がけているLIXILは、
常に生活における水そのものについて考えてきた。
蛇口をひねればいつでもどこでも安全な水が出てくる日本。
だからこそ、水に対するこだわりは日本人の“本能”とも言える。
そんな、日本の家庭にふさわしい、究極の水とは何か?
水の新たな可能性を探るプロジェクトが、LIXILの「X-Water」だ。
安全でおいしいのはもちろん、
その水を使うことで、より私たちの暮らしが豊かになっていく──
では、その水によって、どのように暮らしが豊かになっていくのか。
まずは、生活にもっとも身近な“食”の分野で考えてみたいと思う。
今回、お招きしたのは、京都「木乃婦」の三代目主人・橋拓児さん。
木乃婦は、京都で80年余り続く老舗料亭。
その跡取りとして生まれ、大学卒業後、名店「東京吉兆」にて修行。
3代目として家業を継いだが、3年前、
栄養学の権威である伏木亨氏の誘いで、
京都大学大学院農学研究科を受験し、入学した。
「世界に認められる和食を、さらに素晴らしいものに発展させ、
正しい知識や技法・味わいなどを後世に伝えてゆくためには、
経験や勘だけに頼っていてはダメ」──そう考え、
料理の“おいしさ”について、科学的に研究している、
異色の料理人だ。
そんな橋さんを迎えるのは、LIXILの機能水開発室室長で、
同社の浄水器開発に携わる中島泰仁。
分野は違うが、ともに水にこだわる、プロフェッショナル。
二人に、料理によい水を使うことの意味や、
未来の水の可能性について、おおいに語り合ってもらった。
- 料理人である橋さんにとって、“よい水”とは?
- 一言でいうと、“だしがよく引ける水”ですね。
- だしがよく引ける水、ですか。
-
和食は8割が水分で、そのほとんどがだし汁。
和食はだしを食べているようなものなのです。
だから、だしを引くための水は、和食にとって非常に重要なんですね。 - だしというと、昆布だしとか、カツオだしとか……
-
主に昆布だしですね。カツオ節からもとりますが、
味に個性がありすぎて料理を選びます。味わいの幅が広くて、
食材を選ばない昆布だしが和食の基本となります。 - 昆布だしがよくとれる水というのは、つまりどういう水ですか?
-
基本的には軟水ですね。その方が、浸透圧の関係で、
昆布の中の旨味成分が水によく溶け出しますから。
- お店ではどんな水を?
-
井戸水です。水が地層を通ってくる間に、
自然由来の養分や、味わいが加わって、
昆布からいい塩梅でだしを引き出してくれるんです。 -
よいだしをとる水には、自然がもたらす
“プラスアルファ”が必要、というわけですね。 - その通りです。
-
私も、これからの浄水器は、ただ水をきれいにして、
プラスマイナスゼロにするだけではなく、
その水を使うことで料理がおいしくなるなど
“プラスアルファ”が必要だと思っています。 -
実は、LIXILさんの浄水器の水、うちの店の井戸水、
そして水道水を使って、だしを引いてみました。
水の”質”の違いがよくわかると思いますので、
飲み比べてみてください。 - それはちょっと緊張しますが(笑)、ぜひ、よろしくお願いします。
中島の前に、3つの器が並べられた。
中に入っているのは、LIXILの浄水器を通した水、橋さんの店の井戸水、
水道水の3種類の水、それぞれでとった昆布とカツオの和だし。
特に昆布は、橋さんの店でも使っている最上級の利尻昆布を使った。
見た目はほぼ一緒。
しかし、どれがどの水でとっただしであるか、中島には知らされていない……。
-
先に味見しましたが、
井戸水と浄水器の水はいい勝負だと思いますよ。
普通の人なら、気づかないかもしれない。 -
では…(1つ目を味見)これは上品な味がしますね……
(2つ目)これは味が濃く感じます……
(3つ目)あ、これはすぐわかりますね。
舌にピリッと来るから、水道水でしょう。 - 正解です。では、井戸水と浄水器の水はどちらでしょう?
- えぇ? 難しいなあ!
- 微妙に違いますよ。
-
……2つ目は、わずかに甘く感じます。
実は以前、水道水と他社の浄水器とできき水をしたことがあるんですが、
8割の人がうちの浄水器の水が“甘い”と答えたんです。 - ほう。
-
それに比べると、1つ目は繊細というか、
ちょっと味が薄いというか… -
中島の逡巡は、15分以上も続いた。
そして、ついに出した答えは…… -
1つ目が橋さんの店の井戸水、2つ目がうちの浄水器、
そして3つ目が水道水! - その通りです!
- よかった!
-
いや、正直、驚きました。
浄水器の水のほうが、よくだしが出ています。
店で出すには少し繊細さが足りませんが、味噌汁や煮物など、
家庭料理にはこちらの方が合うと思いますね。
引き続き、「野菜の炊き合わせ」でも試してみた。
その結果、井戸水を使ったものは優しい味わい、
LIXILの浄水器の水は濃く、
甘みのしっかりとした味わいに。
水道水については、
他の2つとは比べものにならなかった。
-
料理を作ってみても、水道水とそれ以外とでは、
こんなに差が出るんですね。 -
LIXILの浄水器の水で野菜を炊くと、
昆布の甘さがよく引き立って、家庭的なほっとする味になりますね。
それは、だしがよく出ているからです。 -
実は以前にも、一般的な水道水、市販のボトルウォーター、
我々の浄水器の水で、昆布だしの出方を比較したことがあるんですが、
その時にも、浄水の方が“だしが強く出る”という結果になったんです。 - そうなんですか。
-
これまでの研究の結果、水に雑味成分が多いと、
だしのよさを実感しづらい、
つまり水の雑味成分が旨み成分を感じる阻害要因になっていて、
この雑味成分を取り除くことによって
旨みがひきたてられていると思っています。
ですので、うちの浄水器は、そうした雑味成分を選択的に取り除くよう、
設計してあるんです。 -
なるほど。雑味にも、好ましい雑味と好ましくない雑味があって、
全て取り除いてしまうと無機的な味になってしまいますが、
生臭さとか、喉がイガイガする感じとか、舌にピリッとくる感覚とか、
すなわち水道水が持っている“好ましくない雑味”は、
なるべく除去した方がいいんです。
そうした雑味をとる能力が、この浄水器は優れているんですね。
-
私たちの浄水カートリッジは、不織布フィルターでゴミなどを取り除き、
活性炭フィルターで有害物質を吸着除去し、最後にセラミックフィルターを通して、浄水を作ります。 - 複雑なんですね。
-
一番の特徴は、このセラミックフィルターが天然素材であるということ。
一般的な浄水器のフィルターは、石油化学繊維膜が多いのですが、
それだと膜の表面で二次元的にろ過するため、目詰まりを起こしやすく、
急に水の出が悪くなったりすることがあります。 - だから浄水器は、頻繁にカートリッジを替えなければいけない、という印象なんですね。
-
ところが、うちのセラミックフィルターは、三次元の複雑な細孔構造を有しているので、
異物をとらえる表面積や容積が圧倒的に大きいのです。だから小型化が可能。
しかも、石油化学製品ではないので、におい移りもしません。 - なるほど。
-
それらの元になっているのは、私たちが長年培ってきた独自のセラミックス技術。
しかも、全て国内産の窯業原料で作られています。 - 窯業原料って、石や粘土ですよね?
- はい。
- つまり、大地ってことだ。
- そうです。LIXILの浄水器のろ過構造は、大地の湧水の原理を参考にしているんです。
- なるほど。伏流水が地層を通り抜けるイメージですね。
-
実際に橋さんの店の井戸水のような自然の“プラスアルファ”があるかどうかは、
まだ科学的には解明できていませんが、その可能性はあると信じています。 -
いいですね。そのうち、京都の地層をボーリングして、その構造を浄水器で再現できたら、
わざわざ店に井戸を掘る必要もなくなりますね(笑)
- 橋さんは料理人として、どんな浄水器があったらよいと思いますか?
-
そうですね。水の不純物を取るだけでなく、硬度なんかも変化させて、
世界中どこでも和食に合う水にしてくれる浄水器ですね。 - それは、なぜですか?
-
私は、世界中のいろいろな場所で和食を作るイベントを行っていますが、
一番苦労するのは水なんです。水がダメだと和食は作れません。
現地の水だとどうしても、普段自分の店で作る料理の本領を発揮できていません。
ですから、和食を世界に広めるには、まずよい水から、だと思っています。 -
なるほど。実は中国やベトナムに、うちの浄水器のご愛用者がいるんです。
日本から現地に赴任している方なんですが、日本からおいしいお米を持って行っても、
向こうの水では全然おいしく炊き上がらない。
ところが、うちの浄水器を設置したところ、格段においしく炊き上がるようになったそうなんです。 - それは絶対にあり得ますよ。紅茶なんかも、本場のイギリスで飲むと格段においしいですからね。
-
その土地の食べ物や飲み物はその土地の水で、
ということですよね。 -
おっしゃる通りです。あ、こういう浄水器はどうですか?
飲み物や料理によってカートリッジを替えられる。
紅茶を飲みたいなあという時はこの水、ウィスキーの水割りはこの水、
今日の夕ご飯は中華料理だからこの水を使おうとか。
スイッチ一つで選べるといいなあ。 -
いいですね。
他には例えば、朝起きた時に飲むと目覚めがいい水とか、
夜飲むとリラックスして眠りに入りやすくなる水とか。
あと、地域によって水質が違うので、
その地域に応じた浄水カートリッジとか……。 - 季節によっても水質は変わりますから、それもぜひ(笑)。
-
わかりました。
その日の気分や利用シーンで水が選べる浄水器、
いつか実現できるよう、頑張ります。 -
そこまでの機能がなくても、
いますぐ家庭に導入すべきだと思うなあ。
確実にいつもの味噌汁、いつもの煮物が、おいしくなりますから。
これは、プロの料理人として保証します。
そして、水がよければ、“生活の質”だって変わるはずですし。 -
私もそう思います。
ゆくゆくは、洗面や浴室空間、家のすべての水が「X-Water」商品で、
家族全員の生活を支えている、
そんな未来になるといいなと思っています。 - 期待しています!
水道が整備されて、私たち人間の生活は格段に便利に、そして安心できるようになった。
さらに、二人が思い描くような“選べる水”が加わったら、
いったいどれくらい、生活は豊かなものになるだろう。
しかもそれは、大地が磨いた天然水のように、自然で健康的な水。
私たちの掲げる“X-Water”プロジェクトは、生活水の可能性を、無限に広げていく──。
1968年京都生まれ。大学卒業後「東京吉兆」にて修行。実家に戻り、老舗料亭「木乃婦」の三代目主人となる。シニアソムリエの資格も取得し、ワインに合う料理とともに味わう「ワイン献立」を提案するなど、和食料理人として新たな調理法や素材に取り組む一方、京都大学大学院農学研究科修士課程を修了し、科学者として「おいしさ」の研究に取り組む。NHK「きょうの料理」講師。著書に『10品でわかる日本料理』(日本経済新聞出版社) などがある。
1966年生まれ。旧INAX中央研究所入社後、ニューセラミックスの研究開発に携わり、様々な工業用セラミックスろ過技術商品を創出。2000年頃から、セラミックス技術を活用した浄水器開発に参画。現在、LIXILの水栓事業部機能水開発室室長として、浄水器をはじめとする「X-Water」関連商品開発の指揮をとる。