キッチン会議

暮らしの真ん中にキッチンを置くキッチンはバーにも書斎にもなる

日本デザインセンター 原 研哉さん

取材 | 2016.11.1

「キッチン会議」では自分らしいキッチンを見つけ出すためのヒントを、
みなさんと真面目に、時には頭をやわらかくして話し合っていきたいと思います。
毎回コラムで話題を提供したり、建築家や専門家の意見を紹介したり、
アンケートを通してみなさんの暮らしぶりや考えをうかがったり。
さまざまな視点でキッチンを見つめながら、「キッチンの答え」を一緒に考えていきましょう。

今回はデザイナーの原研哉さんに、キッチンについて伺いました。原さんはキッチンに大きな関心を寄せています。ご存知の方も多いと思いますが、LIXILのリシェルPLAT(2016年GOOD DESIGN賞受賞)は原研哉さんのデザインです。そんな原さんにキッチンについて改めて伺いました。

原さんは、ご自身でも自宅をリノベーションされています。キッチンは2列配置で、オープンキッチン側はハイスツールで食事もできるようになっているそうです。そのカウンターで一人時間を過ごすことも多いと言います。冷蔵庫からちょっとしたつまみを出して、簡単な料理をつくって、お酒を飲みながらパソコンを広げて書き物をするなど、キッチンで一人の時間を過ごすのは楽しみの一つだと。それはキッチンの空間が書斎のようなものだとも言えそうです。かつては裏方であったキッチン空間は、現代では暮らしの中心に変わってきています。キッチンで仕事や読書、趣味をしたり、音楽やテレビを楽しんだり。たまには友人を招いてキッチンで一緒に食事をしたり。というように、様々なシーンがキッチンの周りで行われる時代になっているのです。

リシェルPLAT

原さんは、HOUSE VISIONという、建築家と企業とで一緒に未来の暮らし像を考えていくという活動を2010年から行っています。今年の8月には2回目の展覧会を終えたばかりです。そこでのテーマでもありますが、現代はかつての家族という意識が希薄になりつつある時代とも指摘します。個人の領域が拡大して、家族のつながりが薄らいでいく時代です。しかし、ただバラバラになっていくのではなく、家族をどうとらえ直していくのか。そうした社会の変化の中で、幸せとは何か、豊かさとは何か、それらの答えを探していくこと、一人一人が自分の暮らし方を自分自身で考えていくことが大事だと言います。そのためにも積極的に自分の家をリノベーションすることを勧めています。自分の暮らしを手に入れる絶好の機会だからです。暮らしの中心をどこにおいていくのか、そんな問いに、「暮らしの中心にキッチンを置く」というのが多くの人の答えになるかもしれないと言うのです。キッチンは、かつてのように料理という労働をする場所から、家族が充実した時間を過ごす場所へと変わっているのです。料理以外のことをする場所で料理もする、というようにキッチンの役割や意味が変わってくるのかもしれません。

海外でも多く活動される原さん。ヨーロッパのキッチンと日本のキッチンを比べると、日本のキッチンは機能性に特化しすぎていると、それよりも水栓をひねったときに気持ちよく水が出る感覚や、引き出しを開けるときの手ごたえ、引き出しの中が美しい木材で仕切りができていて引き出しを開けるたびにちょっと嬉しくなるような充実した細部のあり方など、身体的な感覚が日々の暮らしをもっと豊かにするのはないかとも言います。リシェルPLATの開発ではそうした点も大切にしているのだそうです。

いかがでしょうか。みなさんにとって暮らしの中心はなんでしょうか。そしてその中心をキッチンの周りで展開してみてはどうでしょうか。原さんの言われる「キッチンを暮らしの真ん中に置く」。現代の暮らし像のひとつのかたちかもしれません。

原研哉(はら けんや)
デザイナー。日本デザインセンター代表取締役社長。武蔵野美術大学教授。無印良品アートディレクション、長野オリンピック開会式・閉会式プログラム、HOUSE VISION、蔦屋書店/蔦屋家電、らくらくスマートフォンのデザインなど活動の領域は多岐。毎日デザイン賞、亀倉雄策賞、原弘賞、東京ADC賞グランプリ、など受賞多数。著書『デザインのデザイン』(サントリー学芸賞)、『白』は多言語に翻訳されている。

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