キッチン会議

駅ビルのリノベーションへの新たな挑戦名鉄犬山駅「SUMU INUYAMA」プロジェクト

エイトデザイン株式会社 伊藤太一さん

取材 | 2016.12.22

「キッチン会議」では自分らしいキッチンを見つけ出すためのヒントを、
みなさんと真面目に、時には頭をやわらかくして話し合っていきたいと思います。
毎回コラムで話題を提供したり、建築家や専門家の意見を紹介したり、
アンケートを通してみなさんの暮らしぶりや考えをうかがったり。
さまざまな視点でキッチンを見つめながら、「キッチンの答え」を一緒に考えていきましょう。

今回は名古屋のデザインチームEIGHT DESIGNが手がける、名古屋鉄道(名鉄)犬山駅に直結する駅ビルの「女性と子育て家族」にフォーカスしたリノベーション「SUMU INUYAMA」というプロジェクトについてご紹介します。

http://sumu-inuyama.jp/

EIGHT DESIGNは名古屋・鶴舞に拠点を置き、店舗住居のリノベーションの設計施工を行う企業です。同時に家具や生活雑貨の店も持ち、さらにはエイトパークという子育てママさんのためのカフェを運営するなど幅広い活動を展開しています。今では彼らのライフスタイル提案が広く共感を呼び、多くのファンが育っています。
愛知県を中心とした重要な鉄道網である名鉄は、多くの不動産開発も行ってきました。日本全体の傾向ですが、名鉄沿線の地域でも少子化や若者の都市部への流入で人口が減少しており、住宅開発に新たなチャレンジが求められています。プロジェクト計画地の犬山は名古屋から30分弱、犬山城もあり観光地としても有名で、大学もあり乗降客が多い駅です。しかし通過点として賑わっても、住む人が年々少なくなっていくという大きな課題を抱えています。
そんな背景の中で生まれたリノベーションプロジェクト「SUMU INUYAMA」。EIGHT DESIGNと名鉄のタッグに、LIXILも参加しています。物件は、駅に直結している8階建ての店舗、賃貸住宅、賃貸オフィスの建物です。すでに空きが出始めたこの物件を、大々的にリノベーションすることにしたのです。

1階はカフェと焼き菓子のお店、3階は小さな子供のいる家族用賃貸(7住戸)、6階と7階が単身用賃貸、8階は女性専用賃貸としてリノベーションされる

左 3階の子育てファミリー賃貸の平面図。右下には共有で使えるキッズパークが作られている
右 3タイプのうちの1つ、3歳までの家、「ハイハイグランドのある家」

コンセプトは「女性と子育てママさんが安心して住める家」。3階のフロアは0歳から6歳までの子供を持つ子育てファミリー向け賃貸です。3つの違うコンセプトを縦3タイプ、7部屋作っています。1階には新たにカフェと焼き菓子屋を新設。3階のフロアに住む子育てファミリーは、カフェから食事のデリバリーを頼むことができます。8階の12部屋は女性専用のフロアとし、一人暮らしの女性が安心して住める環境を考えました。
賃貸住宅という場所で暮らす限られた時間を、それぞれの状況に合わせて楽しんでほしいと提案されています。また住人同士が交流できるような子供用の遊び場やカフェでのイベントなども運営することになっています。彼らEIGHT DESIGNが今まで行ってきたカフェ運営やワークショップなどの様々な経験が、ひとつのビルの中に結集しているのです。
この建物は2017年春から入居開始予定です。この場所でどんな暮らしが展開できるのか、今から楽しみです。

左 女性専用フロアの一室のコンセプト。4タイプ全12部屋が用意されている
右 女性専用フロア4つのコンセプトを説明する伊藤さん

リシェルPLATの採用

「SUMU INUYAMA」プロジェクトでは、各住戸のすべての住宅設備にLIXIL製品、3階のキッチンにはリシェルPLATが採用されています。キッチンについては普段は造作で作ることが多いそうですが、賃貸住宅という不特定の人が住む家では耐久性や普遍性を考え、既製品を選んだと言います。

キッチンのこと

キッチンについて、普段の設計のときに考えていることについても伺ってみました。キッチンのあり方に「これが正解」ということはなく、まずはヒアリングをし、どうしてそうしたいのかを聞いていくと言います。キッチンは他の空間との関係性でできています。どんな暮らしをしているのか、そのことでキッチンの形は決まってきます。結果的にはオープンキッチンを選ぶ人の方が多いようですが、それを勧めるのではなく、それぞれの料理の仕方や食べ方、家族との関係、来客の頻度、そしてライフスタイルを考慮すると自ずと答えが出てくるそうです。決して押し付けず、自分たちでも考えてもらう。そうした姿勢は彼らの仕事において一貫しています。

「リノベーションスクール」という取り組み

彼らの仕事の仕方についてもご紹介しましょう。
EIGHT DESIGNでは、リノベーションをしたいという方に向けて設計前に一緒に勉強をする期間を設けています。学校に模して「リノベーションスクール」と名付けています。

左上 入学前に開かれるオープンキャンパスの資料
右上 リノベーションスクールの全9回のプログラムの紹介
左下 リノベーションスクールに入学するとオリジナルの革製カバンが支給され、教科書、筆箱、ペンや三角スケールなど授業に必要なものがすべて揃えられている
右下 本講義で使われる教科書は作成に3年の時間を費やした

「初めての家づくりで失敗せずに一度で満足のいく住まいを手に入れてほしい」という思いから、3年がかりでカリキュラムを作ったそうです。全9回のカリキュラムは1回2時間ずつ、約2ヶ月かけてマンツーマンで行うそうです。その内容は不動産購入の手引きから始まり、リノベーションの設計手法、住宅設備に関する知識、素材やカラーコーディネート、インテリアの考え方などを網羅した本格的な講義です。最後には筆記試験もあります。こうして最終試験をパスしてから、設計作業に入るそうです。家づくりを人任せにせず、知識を習得して自分たちで考え、深く関わってもらうことで家への愛着を育んでいくのだそうです。

上 入居後に渡される卒業アルバムには打ち合わせ風景や工事途中の写真などが編集されている
左下 インテリアを整えた入居後の写真も追加される
右下 アルバムの最後には工事保証書や保証内容、メンテナンスのしおりなども一緒に綴じられている

そして家が完成した時に卒業証書と卒業アルバムが渡されます。アルバムには授業の風景から工事途中の写真、完成写真などクライアントの家に関わってきた様子が収められています。そこにクライアントの心の様相が描写されているのです。最後の証書は彼らのママカフェ、エイトパークで渡されます。「家の完成の喜びを家族で噛み締めてもらいたい」と、ディナーが用意されるのです。
こうした彼らの住宅づくりに対する思いが伝わり、ママカフェに来るお客様やインテリアショップに来る人たちがファンとなり、「EIGHT DESIGNに仕事を頼みたい」人との関係の上に彼らの仕事は成立しているのです。事業を拡大させることより、共通の価値観を持つ人たちが知識を身につけて満足のいく家づくりをしてほしいと考えているEIGHT DESIGN。彼らのファンは確実に増えています。

伊藤 太一(いとう たいち)
チーフディレクター/常務取締役

エイトデザイン株式会社
2010年に設立。リノベーションを専門とする名古屋のデザイン事務所。本社を鶴舞に置く。名古屋、尾張、西三河を中心に活動。住宅およびオフィス、商業空間など幅広い活動を行っている。
豊富なアイデアとや高い企画力に定評がある。カフェやインテリアショップなど、ライフスタイル提案を様々な活動から行う。住宅の不動産購入から設計、現場監理までを一貫して行い、他にもグラフィック&ウェブデザイン、インテリアコーディネートまで自前のスタッフで構成。得意分野の違うスタッフがチームを組み、「楽しい」をテーマに住まいづくりを行っている。

http://eightdesign.jp/

商品の詳細はコチラ
このページをシェアする

ページトップへ